バイオ×情報工学!異常細胞の自動検知と迅速なDNA損傷性評価を可能にするAI-Driven細胞分析システムを開発 〜染色体異常を検出する遺伝毒性試験や環境汚染物質調査への活用に期待〜

 神奈川工科大学バイオメディカル研究センターのグループは、情報工学と生物実験の融合研究により、AI技術を用いて観察画像中の異常細胞の分類と検知を自動的に行うシステムを開発し、染色体異常を検出するための遺伝毒性試験の迅速化を実現しました。

左から小池 あゆみ教授、髙村 岳樹教授、依田 ひろみ教育講師

1.本研究のポイント
■DNA損傷を検出するための標準的な遺伝毒性試験を短時間化するソフトウェアの開発
■事前に学習させたArtificial Intelligence (AI)を使用したシステム
■技術者のスキルによる不確実性を排除し、労力を大幅に削減することができる
■設定や最適化の工程数を大幅に削減、誰もが簡単に結果を得ることが可能
■生物・地球環境における変異原となる化学物質の特定や評価、それによりもたらされるDNA損傷の研究に貢献

 この成果は、日本環境変異原ゲノム学会の学会誌『Genes and Environment(G&E)』に論文発表し、Featured Articleに選出されました。

2.研究背景
 小核試験は、異数性*¹誘発物質や染色体構造異常誘発物質によるDNA損傷を検出するための標準的な遺伝毒性試験です。試験手法と結果の解釈は単純ですが、顕微鏡視野内の全細胞と小核核含有細胞を手動でカウントを行うことが多く、観察者の技量や数え間違いなどに結果が大きく左右されてしまう、多大の観察時間を必要とし労力を要する、などの問題があります。そのため、小核を自動で計測するソフトは、この分野に多大な貢献をもたらすことができます。小核の自動カウントはいくつかのソフトウェアが存在しますが、高額で入手が困難であったり、専用ではないため最適化のための操作が煩雑なものが多い状況がありました。

3.研究内容・成果
 小核試験の結果は、小核を形成する細胞(MN細胞)の数に基づいて計算されます。このため、培養細胞1000個の間期*²に存在するMN細胞の数を顕微鏡下で数えることになりますが、サンプルの数が増えるとこの作業はかなりの長時間を必要とします。目視観察による誤りを避け、細胞計測速度を上げるために、これまでにもいくつかの改良方法が提案されています。本研究では、細胞の正常/異常を分類するシステムとして深層学習の一種であるCNN(Convolutional Neural Network:畳み込みネットワーク)を用い、事前に正解のわかっている正常および異常細胞の画像を用いて学習させ、学習を終えたArtificial Intelligence (AI)を使って解析対象の画像に適用する、小核試験に特化した簡便で使いやすい小核/細胞検出アプリケーションの開発をおこないました。
 アクリジンオレンジで染色された細胞のカラー小核グラフのRGBチャネルを分離し、細胞核と小核核はGイメージをスケーリングすることで検出され、細胞質はRとGのイメージの合成イメージから認識されます。最終的に、細胞質と小核核が重なる細胞を小核核細胞として識別し、アプリケーションは小核核細胞の数と全細胞数を表示します(図)
図

【図:ミクロ核検出アプリケーションインターフェース。 (A) 事前分析画像(左)と事後分析画像の表示エリア、(B) 画像フォルダ名、(C) 画像分析を開始し、分析済み画像を表示するボタン、(D) 検出された細胞質とミクロ核の画像を切り替えるチェックボタン、(E) 分析済み画像を選択するボタン、(F) 分析済み細胞とミクロ核含有細胞の数を表示する小窓、そして (G) ミクロ核検出パラメータを調整するための個別モードエリア】

 
 開発したシステムは、手動で測定した値と比較して同等の結果を与えたことから、顕微鏡画像内の全細胞数と小核核形成細胞を正確に検出することができ、手動カウントと同じ精度を達成していました。また、解析に必要な時間は手動の10%以下に削減されました。小核核数の精度は細胞染色条件に依存することから、ソフトウェアには閾値、ノイズ除去、バイナリなどのパラメータを手動で最適化して最良の結果を得るためのオプションも用意しました。

4.今後の展開
 がんや環境汚染に関わる研究に携わる若い研究者や資金力のない研究者にも使えるソフトウェアとして基礎研究の推進に貢献する技術であり、広く活用されることを期待しています。

5.発表者
 応用化学生物学科 髙村 岳樹
 応用化学生物学科 小池 あゆみ
 応用化学生物学科 依田 ひろみ

<論文情報> 
 Yoda H, Abe K, Takeo H, Takamura-Enya T, Koike-Takeshita A. Application of image-recognition techniques to automated micronucleus detection in the in vitro micronucleus assay. Genes Environ. 46(1), 11 (2024).
 https://doi.org/10.1186/s41021-024-00305-9 (Featured Articleに選出)

<研究助成等> 
 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(H27~R1年度)での研究成果の一部をまとめたものである。

<用語説明>
*1 染色体の数が、その生物種に固有の染色体数より少ない、あるいは多いこと。
*2 細胞周期における細胞分裂期を除く時期。間期の核内においてはDNA、 RNA、タンパク合成などが行われている。

<関連リンク>
・日本環境変異原ゲノム学会 学会誌 Genes and Environment(G&E) 掲載論文
 https://doi.org/10.1186/s41021-024-00305-9

▼本研究に関する問い合わせ先
 神奈川工科大学 バイオメディカル研究センター
 応用化学生物学科教授 小池あゆみ
 応用化学生物学科教授 髙村岳樹

▼本件に関する問い合わせ先
 神奈川工科大学 研究推進機構
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